迎え火の竹灯籠作り 無事完了

 

精霊に手向ける感謝の道しるべ

令和7年度の迎え火・竹灯籠作りは、連日の暑さのなか関係役員の皆様の粘り強いご協力により、無事に仕上げることができました。猛暑のことを考えると、6月末までの制作作業とした判断は幸いだったように思われます。

さて、ある日たまたま七福神のご参拝に立ち寄られた方々に、竹灯籠作りの様子をお話しすると、その静かな手仕事の魅力に心を惹かれたご様子。
「私も作ってみたい」と申し出られた女性二人連れの方々が、二組おられました。

事前の安全学習のため、後日あらためて来寺の意向を確認し、指導役を担う委員会役員へ連絡。
約束の日時、初めて来寺されたときと変わらぬ穏やかな雰囲気で、今回はどこか期待に満ちた面持ちでお越しくださいました。

まずはYouTubeを通じて灯籠作りの基礎を学んでいただき、その後、作業時の安全確保に関する基本的な学習を住職が講義。
そしていよいよ実技へ――指導役の役員さんにバトンを渡し、手仕事の世界へと歩みを進めていただきました。

用意された孟宗竹を前に、静かに息を整えるようにして、彼女たちは一歩ずつ作業台へと進みました。
初めて手にする工具の重みに戸惑いながらも、真剣に、丁寧に、ゆっくりと最初の穴が開けられていきます。

境内に差し込むやわらかな光の中、時折交わされる笑みと小さな驚きの声。
それを見守る役員のまなざしにも、どこか温かな誇らしさが滲んでいました。
一つひとつのドリルの音が、仏さまへの祈りの響きとなって、夏の空気にゆっくりと溶け込んでいくようでした。

約三十分ほどの作業ののち、ついに一つの灯籠が完成――
「できた…完成…嬉しい…!」
思わず口をついて出たその言葉に、まわりの空気がふっと温かくゆるみました。

作りながら浮かんできた想い、ご先祖の面影、あるいは今の自分への問いかけ…。
参加者のお一人が「初孫誕生を機に、無事息災を願って参加しました」と話してくださったのが印象的でした。
まるでこの灯籠作りそのものが、新たないのちの誕生を告げるような、静かで力強い響きを伴っていたようにも思います。

完成後には、灯籠の確認作業へ。ライトを使っての点灯式。
その瞬間、竹の穴からこぼれ出たあかりは、想像していたよりもはるかに美しく、まさに想像を超えた輝きが目の前に現れました。
思わず息を呑み、立ち尽くす一同。自らの手で生み出したその光に、感激と誇らしさが満ちあふれました。

 

最後の一本に託された祈り

日は変わり、最後に残った一本の竹。
そこへ偶然か必然か、この一本を作られるお方が静かに現れました。
毎月、大仏さまへの参拝を欠かさず続けている、ひとりの若い男性。

事情あってのこととは察せられますが、境内での所作や言葉には曇りがなく、むしろ清々しいほどの元気さでした。
いつものように顔を合わせた小生が、何気なく「やってみますか?」と声をかけると、
彼は迷うことなく「やりたいです」と即答されました。

手早く安全確保の要点だけを伝え、10分後には作業が開始。
車から取り出したゴム手袋を自然に着ける姿は、まるで以前からこの作業に慣れていたかのよう。

しかし作業の途中、ふと彼が漏らした言葉が胸に残りました。
「実は…義理の母が、あと2、3か月の命と医師から言われました。」
その表情は穏やかで、言葉の奥には深い想いがにじんでいました。

「さっき声をかけられて、なぜかやってみようと思ったんです。
母におだやかに渡っていってほしい――そんな願いがふっと浮かんで。」

静かに語ったその想いを胸に、彼は最後の一本の竹に向き合いました。
祈りを込めるように、ゆっくりと穴が彫られていきます。

――願いのこもったこの竹は、三途の川を穏やかに渡りゆく船となり、
苦しみを乗り越え、何ものにも束縛されぬ再生の世界へと渡す「渡し舟」となることでしょう。
そしてこのあかりは、見えぬ川面をそっと照らし、別れゆく者と見送る者――
ふたつの心を結ぶ、静かな光となって寄り添ってくれるのかもしれません。

 

高校生たちの挑戦

今年は高校3年生の生徒さんも、竹灯籠づくりに挑戦しました。
クラブ活動の仲間が集まり、境内で黙々と竹に向き合います。
暑さに負けず一本一本穴をあけていく手仕事。その姿はまさに「手を動かす学び」そのものでした。

初めは安全確保の説明だけでしたが、作業に慣れてくる頃自然に問いが生まれます。
「お盆って何?」「竹灯籠って何に使うの?」

問いにこたえて、短くこう伝えます。
「お盆には、ご先祖様がお戻りになります。その道しるべとして、迷わぬように明かりを灯すのが“迎え火の竹灯籠”です。」

3分ほどの簡単な説明ですがそれは彼らにとって、今まで知ることのなかった“祈りの文化”に触れる時間でもありました。

現代の若者にとって、お盆は学校の休みや行事の一つに過ぎないかもしれません。
けれどもこうした体験を通して、知らなかった「根っこ」にふれ、そこから何かを感じ取ってくれたのなら、それだけで大きな意味があったと感じます。

 

一夜の宿、ひと夏の思い出

作業を終えた夜彼らは近所の銭湯で汗を流し、その後はお寺の広間で、タコ焼き器を囲んでの“アルコール抜きのコンパ”。
にぎやかな笑い声とともに、一日が静かに終わっていきました。

翌朝の写真には、広間に並んだ布団とぐっすりと眠る彼らの姿。
お寺に泊まるという非日常の体験が、きっと心のどこかに残ったことでしょう。

来年にはそれぞれの道へと歩み出す彼らにとって、これは“余裕のある時間での、ささやかな別れの会”。
「いつかまた会おう」――そんな前哨戦のような一日だったのかもしれません。

この先の人生を紡ぐ一節として記憶に残るであろう、何気ない歩みの一日。
行動したぶんだけ、人生は静かに動き始めているのでしょう。
あの灯りをともす竹灯籠作りの1日が、彼らにもこれからの歩みを導く道しるべとなりますように。

彼らの良き人生を願って……        合 掌

 


 

一般参加皆様の竹灯籠作りスナップ集

指導担当 沖野副委員長

   

指導担当 小谷委員

   

いよいよ実践の時 心をこめて

最後の残り1本を託されて

                

                

高校生の竹灯籠作り

                

   

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